法律相談センター担当者用の契約用紙を、担当外の弁護士が流用 なりすまし行為認めずー東京地裁

 法律相談センター所定の契約書には「本件契約は、法律相談センターの承認を経て効力を生じる」という縛りが含まれているものがある。本来は法律相談センターの担当弁護士のみが使用するものだが、これを流用した一介の弁護士がいた。相談者は法律相談センターの担当弁護士と契約したものと思い込んでいた。

 東京地裁は平成26年5月28日、弁護士のなりすまし行為を主張した原告の訴えを棄却。着手金52万5千円は弁護士の懐におさまった。しかし弁護士は相談者が名誉毀損したとして反訴を提起しており、なおも控訴すると主張しているらしい。

 

 相談者の主張には判例が引用されていないが、クーリングオフ適用外の契約を、契約したあとで無効とした判例もあるようだ。

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第1被告の主張・陳述の虚偽性について

1 調停・懲戒等における契約不成立の主張について

(1) 原告が、平成21年4月1日の調停期日に、本件契約は法律相談センターの承認を得ていないこと(すなわち契約が成立していなかったこと)を伝えられたのち、その事実を懲戒請求においても主張していたこと の事実は、被告が陳述書において「甲192の(懲戒調査の)準備書面3に至って」「この点に触れた」(乙85の3頁18行目)と認めているとおりである。

 

(2) また、「また、反訴被告の」で始まる被告陳述(乙85の2頁(6)項から同4頁の11行目)は、平成24年1月26日付け被告準備書面2の「即ち、原告は」で始まる主張(同5頁25行目から6頁35行目)を写した文章にすぎず、すでに主張してきたとおり、被告あてのメール及び調停資料の甲182、甲183の内容は、原告が本件契約は不成立であったことを知る以前に作成されたものであり、「(原告は法律相談センターの)『審査』を経ていないことについては一言も触れていなかった」という主張(乙85の3頁1行目から3行目)は、逆に、原告が被告から同センターの審査を経たと伝えられていたということの事実を裏付けるものである。

(3) また被告は、本件契約が成立していなかったことを知った原告が、「契約書には瑕疵があるのか?であれば何故か、回答を求める」と準備書面で釈明を求めていたにも関わらず(甲185の1頁の9行目)、何の釈明も行わず、2度目の調停期日をもって自ら調停を打ち切ったのであり、このことも、被告が法律相談センター所定の契約書を使用したことは、釈明ができない行為だったということを明白に裏付けるものである。

(4) また、原告が脊柱の障害を抱えて肉体的に辛い状況にあったところ、漸く被告に事件を依頼することが出来たと信じていたにも関わらず、被告は、原告の主治医であったN病院との交渉も十分に行わず、保険会社への申立てや連絡ごとも代理しなかったばかりか、主治医を交えた打ち合わせなども2度もすっぽかし、原告自らが紛争処理機構への再申立てをせざるを得なくさせ、平成21年1月になっても、「(事件の)検討も十分にはできていません」などと原告に伝えているのであり(甲108の16行目)、原告がすっぽかしについての釈明を求めれば、「勝手にやってください」(甲110の9行目)、「(名誉棄損で)こちらも法的手続きを検討せざるを得ない」(甲114の10行目)などとメールしているのであり、その後に調停が提起されると「預かっている書面はすべて『写』であり『原本』はないので、返還すべき書面も一切ない」(甲210の18頁1・2行目)、「(級が上昇するなどすれば)報酬の請求すらできる場合」(同17頁14行目から16行目)などと主張したものである。そのことは、結果的に、原告が次の弁護士を探すことについても

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第2錯誤無効及び詐欺取消の主張

1 法律相談センター所定の契約書を使用することの逸脱性の高さについて

(1) 甲279、甲280はこれまで紛失していた資料であるが、東京弁護士会法律相談センター運営委員会は、同委所定の契約書の扱い対する原告の問い合わせに対し、甲279のとおり、「個々の弁護士が法律相談センターの名称を使用することもないと思われますが、当センターが、個々の弁護士に『法律相談センターの名称を使用して契約する』ことを許可することもありません」(同第1項4・5行目)、「法律相談センターとしては、同書式の契約書を所持していた弁護士が、当センターとは関係のない依頼者との間でそれを利用することを想定いたしてはおりません」(同第3項3段落目)と回答しているものである。また被告に懲戒が付されたのちの問い合わせに対しては、甲280のとおり、「今後相談センターの担当となった弁護士には相談担当でなくなりしだい不要となった相談センターの契約書は速やかに廃棄するよう指導していくことといたします」(同第1項6段落目)と回答しているものである。

(2)  以上のとおり、同センターと関係のない原告に対し甲59のとおり同センター所定の契約書が使用されたことは、同センターも想定していなかったほど逸脱した行為なのであり、また、同センターが上記のとおり再発防止策を講じるということから考えても、その犯罪性も極めて高いということは明白である。

 本件事件の計画性について

(1) 被告は、甲281の弁護士ドットコムのウェブサイト上のプロフィールのとおり、昭和61年(1986年)に弁護士登録したのち27年ほども司法業務に関わってきているのであり、法律的に正しいことと正しくないことは熟知しているものと原告らが考えたことは当然である。また前項のとおり、法律相談センターすら弁護士が逸脱した行為を行うことは想定できなかったのであり、原告らもそのとおりに考えて、被告の説明により、甲59の契約書は同センターとはまだ関係のない依頼者についても使用して構わないものであると錯誤してしまったのも無理のないことである。

(2) また、契約相談日に契約書の雛形を準備しないのが被告の業態であるならば、これまでにも契約書の作成時間が不足して、後日に作成するなどの対応は行ってきたはずであり、このことは、「弁護士の報酬に関する事項を含む委任契約書は」「作成することに困難な事由があるときは」、契約当日に作成する義務はないとする規程(弁護士の報酬に関する規程同第5条の2)によっても認められているのだから、被告が、甲59の契約書を原告に対して使用した行為は、単なる不注意や、時間が不足していたという理由で行われるものとは到底考えられないのであり、その計画性は明らかというべきである。

(3) 原告らは契約相談日に長時間待たせられたことなどから、被告の信頼性について疑いを持たざるを得なかったところ、甲265陳述書の3項(3)項から(10)項のとおり、被告から契約内容について十分に説明を受けたところ、本件契約は法律相談センター審査部会によって審査されるということが確認できたから、被告が同会の承認を得るものと考え、それならば契約しうるだけの信頼性はあるだろうと考えてしまったからこそ、契約の意思表示を行ったのであり、同日に原告が着手金の一部を支払ったことも、そのことを裏付けるものである。

(4)  また弁護士には「報酬に関する基準を作成し事務所に備え置」く義務があり(弁護士の報酬に関する規程3条)、さらに「法律事務を受任するに際し、報酬及びその他の費用について」の明示義務があるところ(同5条)、被告は本件裁判においても、報酬基準についての資料は甲92の1ないし2のとおり「かつての弁護士報酬会規の着手金等早見表」のみしか示しておらず、このことからも、被告は契約時に報酬計算の根拠となる訴額の算定式なども示していないこと、また、契約説明の資料は法律相談センター所定の契約書のみであったということは裏づけられるというべきである。

(5) また原告らは、甲265の3(22)項以下の陳述のとおり、3月24日に契約が法律相談センターに承認されたという虚偽を伝えられ、それで契約に効力が生じたと信じ込まされてしまったのであり、そのことは、甲259の原告手帳の3月24日の「支払方法(正)」と記載されており、その後、原告が着手金の支払方法を確かめるために被告事務所へ連絡し、3月28日の甲72のファックスで着手金の入金先口座を伝えられ、その口座へ着手金の残額を支払ってしまったということからも明らかである。また被告が着手金の支払い方法をあらかじめ原告に伝えていなかったということも、上記事実を裏付けるものである(約束の入金期日の3日前になって漸く支払い方法を伝えることは、特別な事情がない限り、考えがたいことである)。以上のことから、原告は、民法95条及び民法第96条第1項による本件契約の取り消しを求める。

(6) そもそも甲59の契約書は、「本契約は乙が法律相談センター運営委員会審査部会の承認を得たときに効力を生じる」という第1項、及び東京弁護士会との関わりに関する8項ないし10項を削除したものではないのであり、法律相談センターの承認を得たということもないのだから(そのことは、法律相談センターが、甲279の「1項」で、本件契約のことを「当センターが関知しない個々の契約」と述べているとおり)、本件契約が成立していたという主張は失当であり

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