【記者会見】第一東京弁護士会、松田豊治を除名
平成26年2月27日(木)霞が関の司法記者クラブで、第一東京弁護士会所属弁護士の除名処分についての記者会見が行われた。公表された「懲戒処分の理由の要旨」は以下のとおり(「」内は資料より引用。●は注釈)。
■ Aさんへの融資依頼事件(虚偽保証文書作成)
1.対象弁護士がAさんに融資の安全を保証した
対象弁護士は、「平成20年10月28日、XがYを連帯保証人として、懲戒請求者Aから3000万円を借り受けるに際し、AとX、Y間の金銭消費貸借契約に、Xらの要請により作成した『連帯保証人Yが不動産、有価証券、預貯金等約116億円の資産を有しているが、名古屋地方裁判所及び同高等裁判所における離婚訴訟が一、二審共にYが勝訴し、現在上告審の最高裁に係属中のところ、Yの資産は、相手方の仮差押により凍結されているが、上告事件の勝訴確定後に現金化して借受金の返済に充てる』旨の『別紙』を添付」した。
そのうえ、「同契約書に『別紙』の内容に間違いないことを保証するとの文言を記載したうえで、同契約書に立会人として記名捺印をした」。
- X(男性)とY(女性)は内縁関係とのこと。Aさんがその説明を受けていたかは不明。
- 返済日が後述のとおり12月18日であることから、対象弁護士らは「Yが最高裁で勝訴するまで、1か月半のあいだだけ融資を希望しているなどのことを説明したことが伺えるが、通常、最高裁での判決日を知ることは困難であり不自然である。
- Yが離婚訴訟で資産を差し押さえられていたとしても、勝訴してきていたのであれば、差押えの仮処分の申立てをすれば凍結が解除できると思われ、弁護士がXの話の不自然さに気付かないのは不自然である。
- XがAさんに説明した融資金の利用目的については公表されていない。
2.Aさんは融資金を対象弁護士の口座へ入金
「Aは、対象弁護士が別紙の内容が間違いないとの保証をしたことから、これを信用できるとの判断の下に、同年10月29日に、Xに3000万円を立会人である対象弁護士の銀行口座に振り込む方法で貸し渡した(第1貸付)」。
「Aは、同年12月8日、Xに対し、Yらの要請により更に6000万円を貸し渡した(第2貸付)」。
「なお、第2貸付も、第1貸付と同様、対象弁護士の銀行口座に振り込む方法で為され、またAが前記『別紙』の内容についての対象弁護士の保証を信用してのことであった」。
3.融資金が返済されず、Aさんが調査
「ところが、第1貸付の弁済期限である同年12月18日にX、Yからの返済が全くされなかった」。
「Aが調査をしたところ、前記『別紙』記載の、Yを当事者とする離婚訴訟が、名古屋地裁、名古屋高裁、また最高裁に係属した事実が見出せず、Yの裁判は架空のものであり、またYの財産も存在せず、Yなる人物の実在すら疑わしいことが判明した」。
- 対象弁護士が「別紙」に記載した3つの名古屋裁判所の事件番号は偽物だったということが伺える。
- AさんがYの不動産登記簿を調査したことも伺える。
4.Aさんは対象弁護士を問い正した
「Aが対象弁護士に問い正したところ、対象弁護士はAの前記した調査内容をほぼ認め、Yの裁判についての事実記録の確認をしておらず、またYの財産についても通帳や登記簿の確認をしないまま、XやYの説明をそのまま『別紙』に記載したとの回答をした」。
5.対象弁護士は「自分が支払う」と約束しながらも返済せず
「対象弁護士は、Aより抗議を受けて、前記2件のXに対する貸付金につき自分が支払う旨を約したが、『いついつまでに支払う』との約束をしては破ることを繰り返し、Aによる懲戒請求申立日現在、Aに対し全く支払いをしていない」。
- 対象弁護士がXを告訴したなどという話はでてこなかった。
6.Aさんが強制執行を申し立て
懲戒請求以降の「対象弁護士による任意の弁済は600万円に過ぎな」かった。Aさんは平成25年に「強制執行」により、「結果的に9000万円の損害のうち、4756万円余を回収」した。しかし約3644万円はまだ返済されていない。
- 5%程度を返済するなどは、事件引き伸ばしや告訴対策を目的として行われることがある。
■ 第一東京弁護士会の結論
1.「不自然」「「Yに資力がないことは調査をすれば簡単に知り得た」
「前記『別紙』の内容に不自然な点があることは、法律専門家である弁護士であればわずかな注意を払えば容易に認識することができたにも拘わらず、Xらに事実関係や理由を問いただすことも、判決書等の資料の提出を求めるなどもせず、またYの資力に関する事実についても、Yに資力がないことは調査をすれば簡単に知り得たにもかかわらず、何らの調査もしないまま、Aの面前で『別紙』に記載の事実についての保証文言が記載された本件契約書に記名押印をし、これによりAをして前記『別紙』の記載内容が事実であるとの誤信をさせ、第1貸付をさせたものと認められる。また第2貸付についても同様であったと認められる」。
対象弁護士の1項,2項の行為は、弁護士職務基本規程5条、14条に違背するものであって、弁護士法56条1項に該当する」。
2.対象弁護士による「支払約束は、不法行為による損害賠償債務」
「対象弁護士が約束をした支払いをしないことも、Xらの説明が虚偽であることを知っていたか、そうでなくとも虚偽であってAが本件各貸付を回収できず損害を受ける蓋然性が高いことを知りつつ、あえて自身の弁護士としての信用をXらに利用させたもの」であるとする。
「支払約束は、不法行為による損害賠償債務の支払いであったと認められるのであり、それの不履行は弁護士としての品位を失うべき非行に該当するというべきである」。
しかし、対象弁護士による任意の弁済は600万円に過ぎず、その非行を払拭するにほど遠い。
3. 「通常考えられない異常な行為」
「対象弁護士は、Xらの説明には不自然な点が多数あるにもかかわらず、裏付け調査をしたりすることを一切しないまま、その説明内容に添う『別紙』を作成して本件契約書に添付」した。
「さらにXらの説明は真実に間違いない旨の保証文言を、自ら本件契約書に付記したうえで、立会人として同契約書に記名押印した行為は、弁護士としては通常考えられない異常な行為というべきである」。
4. 対象弁護士の姿勢「正に常軌を逸したものというべき」
「誤信に陥ったAに巨額の損害を被らしめたことに対して法的責任ありとは思わないとする対象弁護士の姿勢は、社会的に高い信頼を受け、的確な事実の把握と法的判断を行うことを期待され、それに応えるべく最大の努力を為すことを業務の基本とする弁護士の在り方として、正に常軌を逸したものというべきであって、対象弁護士には、弁護士としての品位を失うべき非行があり、その程度も著しいものと判断される」。
■ 融資依頼をしたB社の証拠金横領事件
1.B社はC社から融資を受けるため、証拠金2500万円を対象弁護士の口座へ入金
「懲戒請求者B社は、C社から10億円を借り受けるにつき、年率2.5%の金利2500万円の支払能力がB社にあることを見極める為として、C社代理人である対象弁護士に、同金額を預託する旨の合意をし、対象弁護士はB社とC社が前記金銭消費貸借契約の締結に到らなかった場合は、証拠金全額をB社に返還することを約した」。
2.B社は融資を受けられず証拠金返済もされず
「B社は、対象弁護士の名義の口座に2500万円を送金して預託したが、結局B社とC社の金銭消費貸借契約の締結はされなかったにも拘わらず、対象弁護士は同金額の返済に応じない」。
3.第1東京弁護士会の結論
「対象弁護士は、B社から証拠金を自己の口座から引き出して使用することを容認されていたと主張するが、そのような認定をすることは到底出来ず、また後日本件懲戒請求は取り下げられているが,これにより対象弁護士の品位を失うべき非行が払拭されるものではない」。
- 第一弁護士会は、懲戒請求取下げの後も、事実は存在したとして審査しているとのこと。しかしながら、Aさんの事件で懲戒が付されるまで5年以上かかり、その間、平成23年にB社の事件が起きた。早期公表等の対策が必要であると思われる。
■ 「品位に倖ること甚だしい」「除名を相当とする」
「対象弁護士のAに対する第1及び第2貸付に係る行為は、弁護士に対する信用を裏切ること著しいと判断されることに加え」、「Aに対する被害弁償が全く為されていない時期において」、「B社に対する事件を惹起した対象弁護士には、Aに対する」「被害回復、B社による懲戒請求の取下げを考慮しても、弁護士としての品位に倖ること甚だしいものがあると判断され、除名を相当とした」。